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すずめの戸締まりの感想 ダイジンとは何か(後半ネタバレ) 

 

 

「すずめの戸締まり」観に行ってきたので、感想を書きます。

前半はネタバレなし(どんな雰囲気かくらいは分かっちゃうかも)、後半はネタバレありで書いたので、ネタバレNGの人は途中までは読んで大丈夫です。

 

初回は何も考えず思いっきり作品を浴びて楽しもうと決めていったので(新海誠作品はどうせ複数回劇場に観に行くだろうし)特に深い考察などはとりあえずせずに素直な感想を書きました。

 

 

個人的な感想(ネタバレなし)

全体を通して

今作は「新海誠の集大成」などと公式が煽り文句を入れていたし、まあそれはそれは期待して観に行きました。

結論から言うと、過去作品とはまた毛色が違うものの、新海誠の作家性はきちんと感じることができた作品でした。

 

彼の描く世界が好きな方はきっと好きな作品だと思います。

 

過去の作品のやり直しという雰囲気は君の名は。とかよりも薄まり(それはそれでファンとしては激アツなので良かったのですが)、君の名は。のメガヒットにほんの少しだけ引っ張られた感のあった天気の子よりも自由に作品が作られているように感じました。

ぶっちゃけ個人的には君の名は。雲のむこう、約束の場所のほうが好きではあるのですが、私が今回劇場に行ったのは君の名は。雲のむこう、約束の場所を観たかったのではなく、新海誠の作る世界を観たかったので、そういう意味ではとても満足でした。

しいて不満をあげるとすると

唯一少しだけ不満をあげるとすると、過去作品と比較すると儚さがなかったことです。

どちらかというとストーリーの大筋は王道で、そういう王道さは天気の子的ではなく君の名は。的でしたが、君の名は。のようにハッピーエンドの皮を被った儚さの滲み出る感じはなく、すっきりと終わる感じが心地よくもあり少し寂しく物足りなくもある…というような感じで。

 

あとは後半のネタバレ込みのパートに記載しましたが、ダイジンの行動原理がよくわからなかったことと、ラブストーリーとしてそこまで入れ込めなかったことです。

魅力的なキャラクターとその関係性の描写

もちろん、それ以外はおおむね満足で、例えば世界観だけではなく、登場人物も魅力的でした。

良い作品には魅力的な人物が必要ですが、本作でもたくさんの素敵なキャラクターが出てきます。まっすぐで年相応な主人公すずめはもちろん、天気の子の須賀さん、君の名は。のテッシーのような愛すべきキャラクターも登場し、さらにとても重要な人物として登場する叔母の環もとても良いキャラクターとしていました。

さらに本作では、すずめと草太の男女の関係だけではなく、すずめと叔母の環の親子関係も丁寧に描かれており、むしろ今回新海誠はこっちをメインで描きたかったんじゃないかと思えるほどその関係と変化をしっかりと感じることができました。

相変わらず圧倒的な風景描写

もちろん、新海誠の代名詞である叙情的で美しい風景描写は健在どころかいまだ衰えるところを知らず、序盤から終盤まで絶好調。

君の名は。でもそうでしたが植生の描き分けもしっかりしていて、そういう点でも違和感なく楽しめました。

コミカルさもちゃんとある

あとは天気の子の若干の萎えポイントだった、君の名は。からなぜか劣化したコメディ要素は結構自然でニヤニヤしながら見ることができました。

新海誠言の葉の庭以前はコメディが下手だった(そもそもほぼ描いてないし)のでこの自然さは感動的。

「後ろ戸」という舞台装置とその設定上、この作品はどう作ってもシリアスと切っては切れない関係なわけですから、本作が大衆に向けたエンターテイメント作品として成り立つにはコミカルさが必須なのですが全体を通して良いバランスだったように感じます。

音楽について

最後に音楽ですが、RADWINPSとの3度目のタッグだったので天気の子のように君の名は。に引っ張られすぎた構成になっていたら流石におなか一杯かなと思っていたのですが、構成だけでなくRADの圧もそこまで感じない、自然な仕上がりになっているように感じました。

もう少し主張しても良い感じだけど、主張が強い作品が2つ続いたのでいったんはこれくらいでちょうどよいかもしれないですね。

 

まとめ(ここまでネタバレなし)

ということで個人的な感想まとめ。

 

「このテーマを描くぞ」という新海誠の強い覚悟と強い作家性を存分に感じられる良作です。

ぜひ劇場に足を運んで観てみてください。絶対に損はしないと思います。

ただただ鬱映画が観たいと宣う原理主義者はお家に帰って秒速5センチメートルでも見ていてください。(あと秒速は呪縛と解放の物語であって鬱エンドではないから。よっぽど「雲のむこう、約束の場所」のほうが鬱映画だから!

 

※以降ネタバレを含みます。

 

ネタバレありの感想(以降ネタバレあり)

本作は何を描きたかったのか

詳しい考察は2回目を観てからにしようかなと思っていますが、本作をざっくり一文でまとめると「すずめの解放と成長を描くロードムービー」です。

 

すずめと草太のラブストーリーが主軸かというと決してそうではなく、すずめの過去の喪失からの解放と家族の成長も大きな軸として存在しているので、「すずめと草太の解放と成長を描くロードムービー」ではなく「すずめの解放と成長を描くロードムービー」が一番しっくりくるかなと。

 

この複数軸によって感じた微妙な不満は後述しますが、何より本作で気になったのは

ダイジンです。

「ダイジン」とは何か。

本作で正直しっくりこなかった点というか、イマイチよくわからなかった点として、「ダイジン」と「サダイジン」とは何だったのか、何がしたかったのか、どうして最後素直に要石に戻ったのかです。

 

曰く「神」なのだそうで、よくわからない行動原理や幼い言動は「神」の特権ですしそれで片付けてしまっても良いのですが、少しだけ考察してみます。

 

まず「サダイジン」は草太の祖父と過去なにやらあったような描写がありました。関東大震災の時は祖父はまだ生まれていないでしょうから、それこそ東日本大震災の時に何かあったのか、あるいは東京の地下にいたのですから祖父とサダイジンは過去関東での大地震を未然に防いだことがあるのか、考察のしようもないのでいったんスルーするとして、問題は「ダイジン」です。

 

本作では民俗学的なよくわからないものが二つ出てきます。

まずは要石。もう一つはミミズです。

ミミズはまさに荒ぶる自然そのものを具現化したものとして描かれており、日本的な「神」を彷彿とさせます。要石に関しては直接的に「神」と言及されていて、実際に石神のような姿ですので神なのでしょう。

ただ一方で、草太も要石になりかけていました。草太は神ではありませんがそれでも要石になることができました。

どうやって要石になったかというと、ダイジンに呪われたからですね。

中盤で草太が気づいたように、ダイジンは草太を椅子に変えた時点で要石の役割を移しています。このことから、要石になるには少なくとも人間の姿のままではだめで、その人の意識ないし魂を別のものに移す必要があることがわかります。

ということは、

じゃあダイジンももとは人間だったのでは・・・?

という可能性が出てきますね。ゾクゾクしてきました!

 

その前提に立つと、ミミズという荒ぶる神を抑えるための人身御供として要石にされたひとがいたのでは?ダイジンが幼い言動をしていて、すずめに好かれていると勘違いしたり、からかうような言動をしたり、草太に嫉妬したり、最後には自分を犠牲にするような行動をしたりしたのは、生贄にされたのが子供だったからなのでは?閉じ師は後ろ戸を閉じて回ってもミミズを抑えきれないのでそうした生贄を捧げる活動もしていたのでは?だとすると閉じ師の末裔である草太が要石にされたのには因果があったのでは?

 

ちなみになぜ猫なのかはたぶんそこまで深い意味はないように思います。純粋に新海誠がただ猫が好きなだけで民俗学上の意味とかはあんまりなさそう。マジで新海誠猫好きだからな、飼ってるし。

 

とまあほとんど妄想の域に至るまで考察してみましたが、本当に妄想レベルの考察なので、それを明示するヒントは見つけられなかったので再度劇場に行って色々考えながら観てみようと思います。

もしかしたらちゃんとダイジンの行動原理を示す描写があって私が見落としているだけかもしれないですし。

ラブストーリーとしてはもう一声

さて、本作への微妙な不満として、すずめと草太がの関係性が、三葉と瀧、帆高と陽菜ほど互いを強く求めあう関係でないように感じて、ややラブストーリーの軸を楽しめなかったことがあります。

 

これは一つに草太がほとんど椅子だから感情移入しにくいのもあるでしょうが、例えばすずめが要石になった草太を結構あっさりミミズにぶっ刺しちゃうところとか、東京の後ろ戸を結構あっさり閉めちゃうところが影響しているのかもしれないですね。尺やテンポの関係で仕方ないですが、いったん諦めるなら諦めるでもう少し演出の工夫のしようはあったかもと思ってしまいます。

一方で「草太さんのいない世界が私は怖いです!」とすずめが叫ぶシーンは結構ぐっときたのは事実です。

なのでラブストーリーとして少し薄くなったのは本作の主軸がどちらかというとすずめの過去の解放と、家族の成長に寄っているいるからかなと思います。そちらの描写は個人的には大満足で、クライマックスの「すずめの、明日」と「行ってきます」はぐっときますし、すずめと環の自転車の上での仲直りは胸のあたりがぎゅってなりますね。

個人的に好きなキャラクター

キャラとしては芹澤が好き。愛すべきイキリ大学生。最初出てきたときからいいやつ感出てたので好きでしたが途中でアルファロメオ乗って出てきていけすかねぇなと思ったところでまさかのおんぼろ中古車だったことが判明して反動でめっちゃ好きになった。

お前いいやつだな。

あと普通に環さんが好き。人間臭いのとその後のすずめとの関係性も含めて。

そのほかわからなかったこと

あと、新海誠ガチ勢の皆さんに教えていただきたいのですが、今回過去作品の登場人物って作中に出てきましたか?

君の名は。とか天気の子にはそれぞれ過去作品の登場人物が出てきたので一応探していたのですが見つけられず、「ここにいたよ!」とかあればぜひ教えていただけると嬉しいです!

 

総括

色々不満もありましたがやっぱり私は新海誠の作る作品が好きです。

これからも、色々注目されて不自由も多くあるとおもいますが自由にご自身の作家性を発揮して素敵な先本をたくさん作ってほしいと願っていますし、応援しています。

 

といったところで今回はここまで。

お付き合いいただきありがとうございました。

次はもう少し考察メインで書こうと思います。

 

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