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”雲のむこう”から見る”君の名は”【雲のむこう、約束の場所】

皆さん、”君の名は。”、好きですか?

僕は大好きです!!!!

 

君の名は。は、誰でも楽しめるエンターテインメント作品でありながら新海誠らしいこだわりを感じられる点がとても素晴らしく、初めて新海誠作品を観た人から古参のファンまで満足できる完成度です。

 

正直君の名は。以前の新海誠作品はコメディ要素が少ないうえ、万人受けするストーリーではありませんでした。

しかし、とにかく美しい(でもただ写実的なだけではない)風景描写と、一貫して同一のテーマを描き続ける作家性が一定数の人の心に引っ掛かり続け、評価されてきたのだと思います。

 

ところが君の名は。は観る人を選ばない笑いあり、涙ありで(一応)ハッピーエンドの作品でした。

賛否両論、好き嫌いはあれど、誰が観ても楽しめる作品、それが君の名は。です。

 

でもやっぱり君の名は。新海誠の過去作品を観たうえで鑑賞するのが一番楽しめると思うんですよ。

 

当の新海誠も彼の個人サイトでこのように述べています。

 

追記。最後に、この個人サイトを見てくださるような、昔からの(ディープな)ファンの方々へ。『君の名は。』には、僕の過去作のモチーフもたっぷりと盛りこまれています。もちろん新しい要素も多くありますが、過去作を熱心に観てくださっていた方ほど、連続性や語り直し、アップデートに気づいていただけるはずです。子供から大人まで多くの観客に楽しんでいただける映画を目指していますが、この映画を最も楽しむことができるのは、やはり皆さんです。今作でもぜひ、映画館に足を運んでいただけると嬉しいです。

http://shinkaimakoto.jp/kiminona

 

そんなわけで今回熱く語らせてもらいたいのは、過去作品から見る、君の名は。の個人的激アツポイントです。

 

とはいえ僕もそこまでディープなファンではなく、そこまで好きではなくてあまり観ていない作品もあるので、僕が一番好きな新海誠監督初めて手掛けた長編アニメーション映画である”雲のむこう、約束の場所”について語っていきます。

 

目次

 

見ていた夢を思い出せないという要素

 

新海誠が描き続ける一貫したテーマは「喪失」だと思います。

 

喪失のキーとなる要因が距離なのか時間なのか、それとも死なのかは作品によって異なりますが、君の名は。雲のむこう、約束の場所では夢から醒めることによって消える記憶がそのキーとなっています。

 

ご存じの通り、君の名は。では瀧と三葉は互いのことを忘れてしまいます。劇中でおばあちゃんが言っていたように、夢から醒めることで夢の中での記憶を失ってしまうわけです。

かつて彼と彼女は互いの中にいて通じ合っていたんだということを忘れてしまい、結局ラストシーンで彼と彼女は再会するわけですが、なぜ互いのことを求め合っていたのかということやカタワレ時に最高潮を迎えた互いの関係性を取り戻すことはできないのです。

 

さて、一方の雲のむこう、約束の場所では、ヒロインであるサユリはとある理由で眠りから目覚めなくなってしまいます。

サユリは眠り続けている間、夢を見続けているのですが、その夢の中で孤独な彼女は眠りにつくまえに主人公のヒロキとタクヤとした約束を唯一の心の支えにしており、夢の中でサユリはヒロキを強く求めます。

 

主人公のヒロキは、とあることからサユリは夢の中でずっと自分たちを待っているのだと確信し、かつてサユリと行くことを約束したユニオンの塔へ行くことで彼女を目覚めさせようとします。

ところが、ヒロキはラストシーンでサユリを夢から目覚めさせることができましたが、サユリは目覚めた瞬間、夢の中でどれほどヒロキのことを求め待ち望んでいたのか、自分が抱いていた気持ちを忘れてしまうのです。

 

サユリは夢から目覚めたはずなのに、大事な気持ちを失ってしまった。夢から醒め、夢の中で抱いた大事な気持ちを忘れてしまうことを描いているのがこの「雲のむこう、約束の場所」という作品で、同じ夢の中の記憶の喪失を再び君の名は。で描いているのです。

 

ただ、「雲のむこう」は明らかにハッピーエンドではありませんでした。

むしろ何もうまくいかず、だれもかも、何も得られていないのです。

約束の場所も失い、友人や大切な想いを失ってしまったうえに、何より救いがないのは、世界すら失う覚悟でサユリを取り戻したはずのサユリと、ヒロキは離別してしまうということです。(その事実を物語冒頭で描いちゃう監督すごくない?バッドエンド確定演出じゃん)

なぜサユリが去ったのかは物語の中では描かれませんが、夢の中でヒロキのことをどれほど求めていたかを忘れてしまったことは無関係ではないと思います。

 

一方、君の名は。では、この目覚めからの関係性の喪失という部分を、お互いの記憶の喪失を乗り越え、再スタートを切るという形で描きなおしています。

確かに、瀧と三葉はカタワレドキに最高潮を迎えた関係性を思い出すことや取り戻すことはできないのでしょうが、明るい未来を感じさせるようなラストでした。

 

このラストについて、新海誠がハッピーエンドを描いたことを受け入れられないファンが「互いのことを忘れてんだから合わなくてヒロキとサユリみたいに別れたかもしれないだろ~~???はいバッドエンド~~~~!!!!」とか解釈するかもしれないところですが、さすがにそれは穿ちすぎでしょう。

君の名は。」は新海誠が描き続けるテーマである「喪失」をしっかり描きながら、そのテーマと共存の難しいハッピーエンドをみごとに両立させて描いているのが素晴らしいのです。

 

違う軸にいる二人が一時的に再会する展開

 

両作品には主人公とヒロインが一時的に再会し、また別れるという展開があります。

両作品ともそれぞれ再会するシーンは印象的です。

ここでニクい演出だと思ったのは「君の名は。」の方がその再会シーンを引き延ばすところです。

 

雲のむこう、約束の場所」でヒロキとサユリは、夢(あるいは並行宇宙の分岐点)と現実という異なる軸にいながらも互いの気配を感じ、あの病室で手をのばし、触れ合った瞬間に異なる世界がつながり、一時的な再会を果たします。

 

ところが「君の名は。」では二人は3年前と3年後という異なる時間軸にいて、一度互いの気配を感じて手を伸ばすもその手はむなしく空を切ります。

 

印象的な夕陽を背景に描かれるそのシーンは「雲のむこう、約束の場所」をみたことのある人ならば、ピンときて再会をより期待したでしょうが、ところがどっこい、ひと呼吸おいてから一応伏線として張ってあったカタワレ時がやってきて再会できるわけです。

 

過去作品を知っているからこそ期待を裏切られ、その分カタワレ時でより盛り上げれる展開になっているような気がしますね!そうですよね!!!監督!!????!!?監督??監督!!!???

 

もちろん、このシーンは過去作品を知らなくても夕陽を背景に手を合わせて再会できるんだろう、と期待させた後にがっかりさせ、その直後に「そうか、カタワレドキの説明はこのシーンへの伏線だったのか」と膝を打って盛り上がれるシーンです。いやあ素晴らしい。

 

最後に

 共通点これだけかよ、と思われるかもしれませんが今回はこれを是非とも書きたかっただけなのでここまで。

 

ちなみに「雲のむこう、約束の場所」という作品は初見だと本当に何がなんだか分からないはずです。それどころか、何度も見直したところで、そもそもあまりに説明不足な作品であるため分からないところは自己解釈するしかないと思います。

これは意図的にそうした面もあるのでしょうが、やはり監督が思うように描き伝えきれなかった部分もあると言わざるを得ないでしょう。

 

ただ僕は「雲のむこう、約束の場所」がとても好きですし、たまに見返しては「やっぱ意味不明だしちょっと設定甘いよな、ついでにヒロキの声どうして吉岡秀隆にしたんだ」とか言いつつもこの作品の世界観や独特の雰囲気が大好きです。

 

 ぜひ、興味のある人は観てみてはいかがでしょうか。

ソ連的な国家に占領された北海道に軌道エレベーターみたいな塔が建てられていて、青森に住む二人の中学生がジェット機自作しているところで、気になっていた同級生の女の子と一緒に行こうと約束したけど…みたいな話です。

刺さる人にはぶっ刺さります。中学生くらいの歳で観ちゃったらもう抜けないくらいに。

 

それではここまで。

もうブログのタイトルを変えようかな。